WinGroove問題についての作者からの説明とお詫び 1998年9月14日 WinGroove制作者 中山裕基  不正IDが使用された場合の、WinGrooveのハードディスクの消去問題について、多数の御批判、あるいは開発継続 への激励もいただいており、さらに事実関係に対する問い合わせが多数寄せられております。  限られた時間の中で、事実調査、事実確認、プログラムの修正を最優先しておりました関係で、これらに個別に回答 することができませんでした。  個別の回答が困難な状況にはありますが、WinGrooveに対する責任を負う製作者として、事件の背景と経過を お知らせしておくことは、その責務であり、その一端を果たすために、本書を発表するものです。 背景事情  96年後半から、正規ユーザー向けに発行したユーザーIDとパスワードの組合わせ数組が、インターネットの陰の部分 で不正流通している事実が判明してまいりました。  その後、不正掲載しているホームページが増加してきたために、シェアウエア作者として、何らかの対策が必要だと 感じ始めました。  97年1月から、WinGroove Version0.9Fシリーズの開発に着手しました。これは、インテル社から新CPU(MMX-Pentium) が発売になったため、WinGrooveをこの新CPUに対応させ、新CPUの性能向上をより効果的に享受することを主目的 するものでした。  同時に、ユーザーIDとパスワードの不正公開への措置として、不正に流通している特定のユーザーIDが検出される と、「試用状態」(ユーザーIDとパスワードの入力のない状態)に設定を戻す仕様を取入れることにし、そのための不正 流通ユーザーIDの検出プログラムの作成を開始しました。  その頃、あるネットワーク上の電子会議室にて、IDやパスワードの不正公開に対する対策が話し合われておりました。  対策としてハードディスクのデータを消去してしまう機能や、自動的に管理者にEメールを送る機能などを搭載した シェアウェアが実存しているらしいという事が話題になりました。  当時は、これらの機能が現実に作成可能かどうかはっきりしませんでしたが、私としては、ハードディスクの消去に 関しては、その影響の大きさを考えると、いくらなんでも行なえないだろうと考えており、その会議室でも同主旨の発言 をしたと記憶しております。 消去プログラムの製作  97年8月19日、電子会議室にて話題になっていたこれらの機能が実際に技術的に可能かどうかを調査する為に、 ほぼ完成し公開前の最後の調整を行っていたWinGroove Version0.9F-Beta-1の不正ID検出後、「試用状態に戻す」 という動作を行う部分を、「ハードディスクを消去する」プログラムと「メールを送信する」プログラムに置き換えてて 動作させる実験を試みました。  「メール送信」の方は、当時私が有していた技術的情報と開発環境のみでは不可能であると断念しましたが、 「ハードディスクを消去」する機能は、実際に動作する事を確認いたしました。  しかし、消去機能を組込んだソフトの極めて強い機能を見て、作者としては、社会的合意が形成されていない段階 で、WinGrooveにこのような機能を組込んで配付することは不可能であるという結論に達し、そこで直ちに、上記の プログラムから、このハードディスク消去機能部分の削除を行い、「試用状態にする」という、本来の動作に戻しました。 WinGroove Version0.9Fシリーズへの消去プログラムの混入及び配付  当時から現在を通じ、私としてはハードディスク消去プログラムを組込んだWinGrooveを公開する意図も予定も 無かったのです。  このような機能が、作者のプログラムの開発環境に残存しているとは、夢想だにしていませんでした。  実際、98年9月始めにWinGrooveに誤ったIDを入力するとハードディスクが消去されるという情報を聞いた当初は、 私に対する中傷か、嫌がらせではないかと考えており、重視しておりませんでした。  しかしこの件に関する情報や問い合わせが急増するに伴い、私自身が意図して組み込んでいた「不正流通ID検出 時に試用状態に戻す」という部分が誤動作、もしくは、その部分が他人によって改変されたファイルが再配布されて いる可能性を危惧し、98年9月6日、この不正ID検出部それ自体を完全削除したものを、Version0.A0として急遽公開 いたしました。  同時に、ハードディスク消去の被害が広まる事を恐れ、Version0.9Fシリーズの配布にご協力いただいているいくつか のダウンロードサイトの管理者様に連絡し、WinGrooveのファイルの公開を一旦中止していただくよう、要請いたしました。  98年9月9日未明、継続していた調査の過程で、削除したはずのハードディスク消去機能が、依然Version0.9Fシリーズ には残存してしまっていた事が確認されました。  Version0.9Fシリーズの開発、及び97年9月5日からの公開というタイミングを考えると、ハードディスク消去機能を試験 後、削除を行ったはずのその部分が、そのまま私の開発環境に混入してしまっていたとしか、合理的な説明はできません。  Version0.9Fシリーズの配付前のチェックを、もっと入念に行っておけば、この機能の削除漏れについて発見できた のではないかと、反省しております。  Version0.9Fシリーズ公開当時は、ハードディスク消去機能が残存しているとは考えもしていなかったため、前バージ ョンから大幅に増えた新機能の動作確認を中心に検証を行っておりました。  結果、ハードディスク消去機能が残っていることを確認しないままに、配付に至ったものです。 お詫びと対策  WinGroove Version0.9Fシリーズが、不正IDによるハードディスクの抹消機能が組込まれたまま、公表されてしまった 経緯は、以上のとおり、私の配付の際の確認不足によるものです。  WinGroove0.9Fシリーズによる今回の事件により、正規ユーザー各位に不安を与えたばかりでなく、シェアウエア作家 の先輩、同僚の諸氏、そしてシェアウエアの普及に御協力をいただいた関係各位にも多大な迷惑をおかけすることに なりました。  ここに慎んでお詫びを申し上げる次第です。  他方、事件の渦中にも関わらず、声援や激励をいただいた皆様には、感謝の言葉もありません。また、本件の消去 機能の組込みは、私の意図していたところではありませんので、この機能が混入していない事を確認した Version 0.A0 (現在はVersion0.A1) の公開を継続させていただいております。  今回の事件に関する私個人への批判については、これを甘受するところではありますが、個人批判に留まることなく、 シェアウエアのパスワードの不正公開問題、それに対するシェアウエア作家の取りえる措置等、シェアウエアの健全な 発展のための議論につながることを祈願しております。